ハの渡櫓 姫路城の特別公開の見どころ
姫路城天守曲輪のハの渡櫓は、乾小天守と西小天守をつなぐ長屋で、二重二階地下一階、創建時は「西の長や」「さるひつじやぐら北かわ長や」と呼ばれていた。内部は桁行約8.7メートルの長さがある。一般公開時は、1階と地階を通ることになるが、特別公開時はそれに加え2階が見られる。また、ハの渡櫓はニの渡櫓とともに西小天守への入口も兼ねており、地階の踊り場、1階、2階の各階から西小天守に入ることができる。ハの渡櫓地階北室と隣接する西小天守地下1階、ニの渡櫓1階は、これまで一度も公開されたことがない。
ハの渡櫓2階(特別公開)
写真は大天守1階から見るハの渡櫓。1階と2階が見え、一番下の屋根は地階の屋根。右手が乾小天守で左手が西小天守となる。
写真は、2007年の姫路城特別公開時のハの渡櫓2階内部の写真だ。南側(西小天守側)より北を写したもので、左奥に乾小天守へ繋がる扉が開いており、中央には1階に降りる階段が見られる。右手は内庭(城内側)の窓となる。左側の床は当時の床板だ。
この写真は2019年の特別公開時のもので、先の写真とは逆方向から写している。右手奥に西小天守への扉がある。また、お解りいただけるだろうか、階段部分以外は、柵があって部屋に入ることが許されていない。また、窓には新たにビニール障子が復されていて外を見ることが叶わない。
その窓からは、実は内庭の素晴らしい風景が見られた。過去の特別公開時の写真で紹介しておきたい。
写真は、ハの渡櫓からロの渡櫓を見た風景。中央眼下の屋根は台所櫓。所々に垂れている紐は避雷針。筆者撮影のこの写真は、その昔、ブラッド・ピットが感動した風景とのことで、たけしのTV番組で使われたことがある。
こちらは、ハの渡櫓2階から見る大天守の地階の扉(写真中央)。
これらの風景は2019年度の特別公開では全く見られなくなっていて、ちょっと寂しかった。おそらく運営側が渋滞を予想して、2階はちらりと見るだけで速やかに階下へ、というサインを込めたのだろう。その混雑は計り知れないが、だとすれば、導線を意識しすぎのような気もした。これでは、一般公開時の化粧櫓と同じ公開のかたちで(見るだけで入れない)、2019年度のハの渡櫓は特別公開とはちょっと言いずらいのだが、痛みが激しいための処置なのかもしれない。その後、2022年8月の特別公開時は、ハの渡櫓2階に入ることが許された。
ハの渡櫓1階(一般公開)
一般公開ルートで、この渡櫓を最後に天守群を出るため、ここでスリッパから靴に履き替えるゾーンになっている。写真は、1階南面の風景。地階へ降りる階段と西小天守の扉が見られる。
ハの渡櫓1階の城外側の壁には、格子窓や鉄砲狭間がある。眼下の水三門を守るため狭間の角度は急角度となっている。
ハの渡櫓 地階の踊り場(一般公開)
地階に降りたとき、かなり狭さを感じるのだが、1階の約1/4の広さになっている(下写真)。これは天守曲輪の石垣が背後にあって、その分、建物内部の空間がないこと、また、地階は南北2部屋に分断されそのうちの1室に通されていること、さらに、地階(石垣内)を踊り場を設けて上下二段に分けているため、この踊り場の階高が低くなっている。天守曲輪を攻めるとき、このハの渡櫓を突破するのが最初の一手だとすれば、上階に攻め上がるのにかなり苦労しそうだ。
もう少し写真に写っているものを見てみよう。右手に見えている階段はハの渡櫓1階へ通じる。階段下の右手の扉は西小天守の地階に通じる扉となっているが、西小天守内で独立した部屋(倉庫)に通じ上階に上がることはできない。写真中央の木格子窓は、天守内庭に向け開いた窓で登城者を監視(または攻撃)すことができる。また、全く想像できないが、この床下は厠(トイレ)となっている。
先の写真とは逆に、地階の踊り場を反対側から撮影したもの。左手奥の壁に傾きがあるのは、天守曲輪の石垣に沿って傾斜しているからだ。なお、右手の壁の向こうは、このハの渡櫓の地階の別部屋となっていて天守曲輪内庭からのみ入ることができる部屋(非公開)となっている。現在、その部屋は天守群公開のための備品倉庫となっている。
ハの渡櫓 地階の厠(内部非公開)
地下2階はというと、図面を見ると当時の厠(トイレ)が三基並んでいる。ちょうど大天守地階にある厠と同じだ。中庭から見ると与力窓があるが、てっきり天守に入る人を監視する窓かと思いきや、これが臭気抜きの窓という訳だ。なお、写真右手に地階の中二段踊り場から天守曲輪中庭に出られる階段があるが、籠城時には木階段なので取り外し(壊し)が可能と考えるべきだろう。
西小天守地階の一般公開ルート上から見るハの渡櫓。左側に厠へと通じる入口がある。厠へのアクセスはこの扉のみで、右手の地階の別室(非公開)からは入ることはできない。
上の写真を別角度から。ハの渡櫓の厠への入口が左手に見られる。さらにその左手の石垣は西小天守内の天守曲輪石垣だ。
天守曲輪内の厠(かわや)は、ここハの渡櫓1箇所、大天守地階に2箇所で、計3箇所ある。便座でいうとそれぞれ3基なので、計9基ある。
大天守から続く、イの渡櫓、東小天守、ロの渡櫓、乾小天守、ハの渡櫓へと足を運んだ。天守群はあとひとつ、西小天守がある。次のページでは2024年に初めて公開された西小天守を紹介する。
(文・写真=岡 泰行)
参考文献:
『姫路市史 第14巻 別編姫路城』(姫路市)
『日本名城集成 姫路城』(小学館)