城と桜の撮影
これまで当時は城に植えられていなかった桜を、積極的に撮影することは無かったが、ご要望をいただき、2016年から城と桜を撮り始めることにした。筆者の知る限り、たとえば弘前藩では、京都の嵐山から桜を取り寄せていたり、朝倉氏の一乗谷では、足利義秋を招いた際に糸桜をながめる宴を催したり、竹田城近くの立雲峡には、城主が観賞用に桜を植えさせたりと、歴史的にそうそう無縁でもないらしい。
歴史フリークとしては桜に多少の造詣を
桜といえば、ソメイヨシノだが、最近は、その寿命(約40年)から後継品種、ジンダイアケボノやコマツオトメへの世代交代が推奨されている。また、地方の城に行くとよく見かけるが、多くの小枝がほうきのように拡がっていて花が咲きにくい枝がある。てんぐ巣病にかかった桜の特長だ。てんぐ巣病はカビの菌による伝染病で、治療法は無く一度かかってしまうと、その枝を切るしかないらしい。上記の2品種は、ソメイヨシノと開花時期が同じで、てんぐ巣病にかかりにくいのが特長なのだとか。
また、一方でソメイヨシノをできるだけ保護しようとする働きもここ20年ほど行われてきた。例えば姫路城では三の丸を囲むように桜が植えられているが、その昔は、誰でもその根元付近まで近寄ることができた。つまり、人が根元付近の土を踏んでしまうため、固い土となって桜によくない。これを防ぐため、今では桜のまわりに柵を設けている。桜で有名な弘前城では、かなり昔から桜を柵で囲い、桜の根元を保護しやわらかい土壌にしている。余談ながらソメイヨシノは、ひとつのつぼみから、3輪ほど花を咲かせているのをよく見かけるが、弘前城は、桜守によって手入れされ、5〜6輪の花が咲くので、ボリューム感が異なっている。
じっくり桜前線を追えれば本望だが…
桜の開花は、元旦から気温を足して600度付近といわれているが、ウェザーニュースの桜チャンネルなどを参照する方が、手っ取り早くかつ正確だ。桜の撮影は、時間がたっぷりあれば、現地で長逗留や開花状況に合わせて移動も可能だが、なかなかそうはいかない。撮りたい城を絞り、限られた時間を使って、隙間に太陽が覗くところを狙うと効率が良い。天候と開花優先なので、城の遺構写真はスルーして桜に徹すると1城あたりの所要時間も短くなる。例えば、ある年の春は、津山城と姫路城を1日で訪れ、「葉っぱが微妙に見え出しました」の一報を受け、2日目は急遽、一乗谷朝倉氏遺跡といった具合だ(移動距離と交通費は半端ないが)。
桜の撮影備忘メモ
一乗谷朝倉氏遺跡の朝倉氏館跡には唐門横の「ウスズミザクラ(樹齢百数十年)」は、過去の落雷で半分の大きさに(それでも充分に巨木)。津山城はアングルが得られるのが櫓台の突端で足が震えた。姫路城は桜の生長でアングルが限られてきた感が否めない。長野県の上田城の夜桜ライトアップは、東京タワーや横浜ベイブリッジのライトアップを手がけた石井幹子さんによるデザインだ。ライト装置は通年置きっ放しで、毎年、桜の生長に合わせた調整を行うために初回点灯チェックに来られるのだとか。石井幹子さんは、城では、姫路城や大阪城も手がけている。
城と桜というタイトルなので、忘れてはいけない城を紹介しておく。桜の品種は膨大で、それが実感できる城がある。北海道の松前城だ。城域に約250種類、1万本を超える桜があり、品種によって早咲き、中咲き、遅咲きと、開花時期が異なり、桜が楽しめる期間は1カ月間にも及ぶ。関西に住んでいると、ついついソメイヨシノ的な真っ白な絵を想像するが、現地を訪れると、葉桜に見えるが実はそういった品種で満開だったり、花のサイズがソメイヨシノの4倍ほどある品種があったりと驚かされる。城内にあるソメイヨシノが桜の標本木になっているので開花宣言は早いが訪れるタイミングで焦ることはない城だ。
また、ある意味、難攻不落だったのが高遠城で、ここは徹夜組みがいるほど人気があり、城域を埋め尽くす勢いで桜が植えられている。ゆっくり朝9時とか10時に訪れると、桜渋滞に巻き込まれ城跡近くの駐車場が満車のため、山の麓に駐めてかなり歩かなければならない。筆者は朝6時に訪れたがそれでも城跡に最も近い駐車場は満車だった(桜の最盛期は朝6時(または7時)に開園となる)。
津山城の桜
桜の写真は、雪の撮影と似ていて、日が当たっているところと日陰で、現像時のホワイトバランスを少し変えると良い。
一乗谷朝倉氏遺跡の桜
上田城の桜
(文・写真=岡 泰行)