尼崎城の天守とは
尼崎城の再建天守は、2018年11月30日に竣工、2019年3月29日から一般公開された。弘化4年(1847)頃に描かれた天守の正確な立面図や絵図などをもとに、左右に連結する二階建多聞櫓の一部と共に外観復元されている。戸田氏鉄が建てた天守は、四層四階だが、平成に復元された天守の構造は四層四階地下一階の五階建(城は石垣内を地下とカウントする)、鉄筋コンクリート造りだ。
天守が再建された場所は本来あった場所と異なり、西三之丸に位置している。本来の天守跡は、直線距離で約310m東南にあり、今は尼崎市立歴史博物館がある(尼崎市立歴史博物館の前には尼崎城天守閣跡の石碑がある)。
ここで改めて知っておくことがある。再建された尼崎城天守は、北東角にあったものを北西角に再建するにあたり、見栄えや導線を考慮して、本来の姿を左右反転(鏡像反転)させて外観復元されている。天守はそういう意味ではやや残念ではあるが、こういったことは、歴史を撮影する上で、できるだけ頭に入れておくと良い。
天守の撮影スポット
さて、実際に現地を訪れると、困ったことに天守の背後に、タワーマンションや尼崎市街地のビルが写り込む。これが天守以上に目立つ。せっかく訪れたのだから、美しい天守をできるだけ現代のビルは入れずに、かつ、絵になるポイントから撮影したい。そういう訳で、しっかり撮影したい3カ所を、ここで紹介しておく。なお、先にも触れた通り、本来天守があった場所ではないので、写すものは遺構を活用した(情報を埋め込んだ)城郭写真ではないことを断っておく。それでも現代に生きる尼崎城に興味を持ってもらえるアングルなので、撮影場所のGoogleマップを参照しながら、ミリ単位でアングルを詰めて是非トライしてみてほしい。
レンズ焦点距離:42mm(35mm換算)
再建天守前は人工芝で年中緑色。つまりこのアングルで雲を除いて季節感が出ることはない。2020年になって長いベンチが置かれた。平日はサラリーマンがぼーっと居座っていて、なかなか退いてくれず、太陽の角度を見ながらひたすら待つ。撮影そのものはごく短時間で済むが、その城を表すメインカットは光待ちや人待ちで時間を使う。粘ることが大切だ。こういった時間の使い方で写真に説得力や訴求力が生まれる。撮影時期の光は良く、写真は濃いブルーの青空と白亜の城といったコントラストを得ながら濃厚な立体に仕上げた。なお、左右にビルが写り込むのでギリギリでフレームアウトさせる構図をとる。この時、建物のバランス上、天守の左にできるだけ空間(余白)を設けたいが、そのビルのため許されない。そういった意味あいでできるだけ天守を写真中央に据えながらも、左側に余裕を持たせる意識でアングルを詰めておきたい。
レンズ焦点距離:50mm(35mm換算)
再建天守の北西に尼崎城址公園石碑がある。そのあたりから眼前の土塀とともに天守を狙う。天守そのものをクローズアップせず、少し引いた風景要素を入れたアングルだ。こちらも現代のビルが目立つかたちで写らない。左手に平瓦が葺かれた屋根があるがこれは児童公園のトイレで、左手前にある構造物と右手奥にある天守といった具合に、画面内で遠近感や空間の演出に利用する。なお、この時、その屋根をすっぽり入れてしまうのではなく、トリミングで多少切るのが流れを有むポイントだ。また、手前にある土塀は20年ほど前から再建されており、西三の丸の北西ラインをイメージしている。尼崎城跡を知る人にとっては新旧の歴史系アップデートが1枚に収まる感慨深いカットだ。撮影は北側から天守を望むことになるので、朝夕の時間帯がおすすめだ。
レンズ焦点距離:24mm(35mm換算)
再建天守の西側から見る。左手に見える土塀と石垣は、本来の位置から少し北にずれているが、西の外堀庄下川にかかる橋に直結する不明門があった付近で、西三の丸虎口のイメージではないかと思われる。西側から望むことになるので夕方の撮影が望ましい。正面に現代的な坂道と手すりがあるが、夕方になると周囲の建物の影で絵的にあまり目立たなくなる。また、この角度で撮ると坂道や土塀が天守に向かっているように見える。つまり、視線が誘導されて天守により目がいくような仕掛けとなる。そのため石垣の稜線が天守のどこにぶつかるか、より自然に視線を誘導できるよう、アングルを微妙に調整しておきたい。
レンズ焦点距離:90mm(35mm換算)
現代の建物をアングルに入れないという意味では、こういったアングルも破風の連続性があって面白い。尼崎城天守は切妻破風と唐破風が連続する意匠がその特徴。こうなれば『日本城郭大系』の表紙イメージで1枚を。きっと日没後のマジックアワーに撮影するのも綺麗だろう。
尼崎城の再建天守
尼崎城の再建天守は、阪神尼崎駅下車、徒歩5分(兵庫県尼崎市北城内27番地)。開館時間など詳しくはこちらで確認を。なお、開館時間外でも公園に入ることができ、天守のすぐ近くまで近寄ることができる。
(文・写真=岡 泰行)